精神病、別居と離婚裁判
最近は、鬱病の患者さんも増えているようですが、精神病に罹患した(らしい)奥さんと約10年の別居を経て、子どもが成人したことをきっかけに離婚したいという案件がありました。
奥さんは、結婚一年後くらいに精神病ではないかという行動に出始めたのですが、精神科に行かないまま、結婚後15年ほどすると、奥さんがぷいと実家に帰ってしまいました。。年に数回、気の向いたときに帰ってくるだけでは、2人の子どもの世話もできません。子どもの面倒をみに依頼者の母が家に来ていましたが、義母に会うと部屋に閉じこもってしまう、暴言を吐くなど、手に負えない状況にありました。
結論から申しますと、相手が調停にも裁判にも出頭しなかったこと、医師も守秘義務を理由に調査嘱託に回答しなかったことから、当方の言い分のみを裁判所で主張して、5号離婚の判決を頂きました。
■調 停
離婚事件はまず調停から入らないといけません。調停の際に病気が悪化する危険も考えて、裁判所は精神科医も同席して貰えるよう計らって、呼び出しをかけたのですが、裁判所には現れませんでした。そのような空回りの調停を3回程重ねて、調停不成立。この時点で、別居から9年以上経過しています。
■裁 判
次に訴訟を提起します。離婚事由として、「回復の見込みのない」「強度の精神病」(民法770条1項4号、「婚姻を継続しがたい重大な事由」(同項5号)の二点を掲げました。
ただ「回復の見込みのない精神病に」かかっている場合、事理弁識能力(離婚を求める裁判にかかっていることとその意味を理解し、相手の主張に反論できる能力)があるのか?という問題が待ち構えています。
相手方の健康保険の利用状況から、実家近くの精神科にかかっていることは把握していたのですが、ドクターは、個人情報だから教えられない(当たり前ですが)、「本人に裁判所に行かなければならないことは伝えてみるが・・。」と言葉を濁します。
しかし、結局、裁判の期日に法廷には現れません。
そのため、裁判所に調査嘱託を申し立てました。
・嘱託事項
(1)被告が嘱託先で受診した事実の有無、受診している場合、被告の病名
(2)被告の初診年月日、初診時に診断した病名
(3)被告が、現在、嘱託先で受診しているか否か、受診している場合、現在の被告の病名、初診時からの被告の病状・病名の変化
(4)現在、受診していない場合、最終診察年月日、最終診察の際の被告の病状・病名、照会先病院クリニック等の名称・連絡先
(5)被告が精神病に罹患している場合、現時点の判断として、その精神病の回復の見込み
(6)現時点の判断として、被告に事理弁識能力があるか
この裁判所からの照会にも、ドクターは、守秘義務を盾に回答してくれません。
再度架電して、ドクターには、せめて裁判に出てきて欲しいと伝えて頂けるようお願いしました。結局、それでも相手方は裁判に出て来ず、裁判所もやむなく原告(依頼者)だけの本人質問をして結審し、長期間の別居で夫婦としての実態はないことを認定して、離婚を認めました(770条1項5号)。
裁判所も相手方の態度に困っていましたが、裁判では、当事者が主張しない限り、その事実はないものとして扱われます。本件の場合、被告が訴訟能力がないことを主張しないと、その点の判断は下されません。結果は、依頼どおりのものを得られたのですが、後味の悪い事件でした(平成23年判決の案件)。
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河原 誠Makoto Kawahara
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- 所属団体
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- 大阪弁護士会 子どもの権利委員会
- 大阪弁護士会 法律援助事業・日本司法支援センター対応委員会 委員(少年担当)
- 大阪弁護士会 刑事弁護委員会 当番弁護士・委員会派遣事業審査担当
- 大阪弁護士会 刑事弁護委員会 刑事弁護援助金審査担当
- 大阪弁護士会 紛議調停委員会
- 大阪弁護士会 市民窓口担当員
- 社会福祉法人みおつくし福祉会 弘済のぞみ園、同みらい園 第三者委員
- 芦屋市 市長等倫理審査会(2012年4月~2022年3月)
- 大阪家庭裁判所 家事調停委員 (堺支部担当)
- 法務省法制局 大阪少年鑑別所視察委員会(2021年4月~2024年3月)
- 経歴
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- 1986年(昭和61年) 関西大学法学部卒業
- 1993年(平成5年) 司法試験合格
- 1994年(平成6年) 最高裁判所司法研修所
- 1996年(平成8年) 弁護士登録(修習48期)。木村法律事務所就職
- 2002年(平成14年) 事務所設立